金沢21世紀美術館 2011.5.31-6.1②

ヤン・ファーブル[雲を測る男]
[雲を測る男]ヤン・ファーブル

今回は金沢21世紀美術館で私が見た3つの展示−「イェッペ・ハイン360°」展、「サイレント・エコーコレクション展1」、「恒久展示作品」についてレポートします。

近年、一つの美術館で複数の企画展示を催す美術館が増えてきました。東京都現代美術館や広島市現代美術館、新美術館などはどれも見応えのある企画展を同時期に複数開いています。とともに、自館の収蔵作品を、あるテーマに沿って展示するコレクション展が行われることも多くなりました。東京都現代美術館などは、膨大なコレクションを色々な切口でその都度新鮮で刺激的な展示をしているので、収蔵品展がいつ行っても楽しめます。今回の金沢21世紀美術館の「サイレント・エコー コレクション展1」もその種のものです。
残念ながら「無料ゾーン」だけしか写真撮影が許されていないので、「有料ゾーン」の2企画展は写真での紹介ができませんが、まず「イェッペ・ハイン360°」展から。

「イェッペ・ハイン360°」展

デンマークの若手作家の日本の美術館での初個展。
インスタレーション10点の展示。「回転するピラミッド Ⅱ」は壁に取り付けられた全面鏡の四角錐がゆっくり回転し、反射の光で周囲の光景が変わり、また鏡に周囲の断片が万華鏡のように映り込む作品。
「見えない動く壁」はほとんど気付かないくらいの速さで部屋の中に設置された壁が動く。自分のいた場所が変わったように錯覚するのでその空間が把握しづらくクラッときます。
また「変化するネオン彫刻」はネオン管でジャングルジムのような立体が作られており、2秒おきに点灯するネオンが変わって色々な立体彫刻が現れます。
などなど、鏡や光を使った理知的、工学的な作品でありながら、人間の精神の奥に響き、くすくすっと笑いながらそれぞれを体験できる幸せ感溢れる展示でした。
特におもしろかったのは「見えない迷宮」。ヘッドフォンのような赤外線受信機を頭にかぶって、全く何もない広い部屋に入ります。部屋の中を歩くと、所々でビビビビっと頭に信号が送られてきます。赤外線信号によって見えない壁が作られていて、鑑賞者は信号を頼りにその壁に沿って迷路を歩きます。何もない部屋なのに見えない情報で頭の中で建築が生まれてきます。感覚、意識の不思議さを考えさせられる作品でした。

「サイレント・エコー コレクション展1」

最初に書いた、コレクションをあるテーマに沿って企画化し展示したものです。今回は音楽家ツエ・スーメイの「エコー」という作品の収蔵をきっかけに、「身体、音、技術の融合や連鎖的なつながりの中で生み出される音楽」と同じコンセプトで作られた造形芸術を集めた展覧会だそうです。
ヴィック・ムニーズのチョコレートで描いた作品、中川幸男のつぶれた花の作品、他マシュー・バーニー、ジェゼッペ・ペノーゼ、杉本博司など11点の作品が展示してありました。
一番すごかったのはやはり、ツエ・スーメイの《エコー》。これはスーメイがそびえたつ山を前にしてチェロを弾く様子をビデオに取った、ビデオインスタレーション作品です。画像が変に鮮やかでキメが荒くどこか現実感がないのがまず気になります。壮大な山々に向かってスーメイがチェロを弾くとその音がこだまとなって返って来ます。何回か弾いているうちにそのこだまは思わぬ時に返ってきて、時には演奏していない時にも山から音が聞こえてきます。それはまるで山自体の声のように思えます。なんだか自然の意志を聞いているようでもあるし、人知の及ばない自然との対話をしているような感覚に包まれます。原初的であり、また未知の世界に連れて行かれるような感じがすごかった。

「恒常展示作品」

現在金沢21世紀美術館の内外に恒久設置されている作品は10点あって、そのうち6点はいつでも見られます。
このtopicsの冒頭に載せたヤン・ファーブルの「雲を測る男」、オラファー・エリアソンの「カラー・アクティブ・ハウス」(写真①)、ジェームズ・タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」、マイケル・リンの「市民ギャラリー2004.10.9-2005.3.21」(写真②)など。いずれも今をときめくアーティスト達ばかりです。

オラファー・エリアソンの「カラー・アクティブ・ハウス」
(写真①)
マイケル・リンの「市民ギャラリー2004.10.9-2005.3.21」
(写真②)

ファーブルの「雲を測る男」は空に向かって定規を掲げている(素敵な行為です)男の像ですが、美術館の中央に1つだけある円筒形の部屋の上に展示されています。外からは意外と遠くまで行かないと見えません。ファーブルは、あの昆虫記を書いたファーブルのひ孫にあたるので(そのせいかどうかはわかりませんが)、よく昆虫を使った彫刻を作っていますね。ベルギー・アントワープ生まれなので、ブリュッセルの「ベルギー王立美術館」に、黄金虫で表面を覆った球体彫刻がありました(写真③)。
タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」は直島の「地中美術館」で紹介したものと同じですが、あの時はずいぶん並んでやっと入れたのに、今回はいつ行っても誰もいなくて、なんとタレルの空を独り占め状態(写真④)。超贅沢体験でした。
チケットが必要なのは、レアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」(写真⑤)、ピピロッティ・リストの「あなたは自分を再生する」、アニッシュ・カプーアの「世界の起源」など。
上記のほとんどのアーティストはこのtopicsでおなじみです。

ファーブルの球体彫刻
(写真③)


タレルの「ブルー・プラネット・スカイ」
(写真④)
レアンドロ・エルリッヒの「スイミング・プール」
(写真⑤)

アニッシュ・カプーアだけは初出ですが、私がものすごく好きなアーティストの一人です。インド生まれのイギリス人。一昨年の「ロンドンアカデミー」での個展や、ロンドンオリンピックのモニュメントタワー制作などで今やイギリスを代表するアーティストです。「世界の起源」は傾斜したコンクリートの壁の上の方(手が届かないくらいの位置)に黒い楕円形の穴???がある作品です。よーく目を凝らして見てもそれが黒い壁なのか穴なのか、そしてそれがどこまで続いているのかわかりません。
いつもこの手でやられます。あのマットな黒い空間は「宇宙=無」そのものです。世界は「無」で出来上がっているんだと納得させられてしまう。そしてその「無」は寒々しいものではなくぞくぞくするほど神秘的で官能的です。

ということで、建築から現代美術の作品の質や展示・紹介の仕方、観覧者との交流など、どれをとっても納得できる素晴らしい美術館で素敵な時間を過ごしました。


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