随想1

[Contents]
  1. アクリル絵具とのつきあい
  2. 「SEED展」について[1]
  3. 「SEED展」について[2]
  4. 「SEED展」について[3]
  5. NEW YORK HANGING AROUND

アクリル絵具とのつきあい

 私がアクリル絵具を使い始めたのは1978年のことなので、もう20年以上のつきあいになります。当時は絵画はもうやることがなくなったと言われていて、大学生だった私も平面上に何をしたらよいか分からない状態でした。そのとき長年親しんでいた油絵具をやめアクリル絵具に代えたのでした。その最初の作品が<24 CUBIC STUFF>(図1)です。ここには均一な色面でできた範型が規則正しく並んでいますが、そのパターンの変化や繰り返しは遊戯的にされています。この作品ではナンセンスで無表情・記号的な画面づくりを目指しました。当時私が心酔していたポップ・アートの影響が多分にあります。

 この表現のためには展色性がよく発色が鮮やかで、油彩のような情感を持たないアクリル絵具がぴったりでした。またマスキングテープを使ったハード・エッジやエアープラシの使用もアクリル絵具なしではできないものでした。私はこのカラッとした素材感による開放感とともに、油絵の伝統的重みの呪縛から逃れられたことを感じ、これから作家としてやっていく自信が少しつきました。

 その数年後、私の作品は図2に見られるようなスタイルに変わりました。この作品はいろいろな記号的要素がランダムに画面にちりぱめられていて、その点で前のシリーズとスタイルは違っていますが、基本的なコンセプトはあまり変わっていません。中央の大きなピーナッツと周囲の形態は私的なイメージの連鎖で生まれていて、ここでも色や形の遊戯的・表層的な展開の中からナンセンスなユーモアが生まれるのを願っています。
 この作品にはアクリル絵具の他に色鉛筆、木炭、オイルパステルなどを使いコラージュも施していますが、柔軟で固着力の強いアクリル絵具はこんな併用が簡単にできます。また孔版によるプリントもアクリル絵具でしていますし、ハード・エッジやエアーブラシ技法も多用しました。

 その数年後、またまたスタイルが変化します(図版3)。この作品は今までのナンセンスな作品の集大成といったところです。異常に大きいソフトクリームの中味に地球上のさまざまなものがてんこ盛りになっていますが、こんなばかぱかしさを仰々しく、またそれだけインパクトを強く打ち出しました。この作品は無表情な不気味さの中に社会的な批評性も生まれていると思います。
 これはカンヴァスの表面をモデリングペーストできれいに平らにして、そこに孔版によるプリントをアクリル絵具で全面に施し、エアーブラシで調子をつけています。

 70年代に制作を始めた私は、絵画の解体から逃れ自分を絵画に繋ぎ止めるため、このようなアイロニカルな表現をしてきましたが、最近になってようやく絵画に対する信頼を取り戻しつつあるようです。絵画への懐疑が徐々に消え、今は『無限の時間と空間が収斂する磁場』とするような絵画があるのではないかと思うようになってきました。例えば最近は図4のような作品を制作していますが、これはモデリングペーストを塗った面にいろいろな跡を刻みつけ、それをまた、削り取ることを繰り返してつくっています。そのことにより私の生きた時間と空間のあり様を、絵画という磁場に定着できるのではないかと考えています。
 このように一貫して私はアクリル絵具を使用してきましたが、展色性のよさを生かしたべ夕塗りからモデリングペーストを使ったマティエール表現まで、そのときどきのコンセプトにふさわしい使い方と技法をとってきました。これからもつきあいが続きそうです。
(日本文教出版発行「絵画の教科書」掲載)


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