美術館&ギャラリー巡り 2016.10.8-10.12②

先週自分のグループ展が銀座だったので、周辺の画廊を回ってみた。半日で日本橋から京橋、銀座4丁目あたりまで。その中で古くからの友人の個展がいくつかあったのでそれをレポートします。

田鎖幹夫展

ギャラリー砂翁(中央区日本橋)
2016.10.3-10.14
田鎖君とは大学卒業してすぐの公募展や現代展で一緒になり、それからもう30数年の付き合い。80年代初頭には二人とも強制的な直線やベタ塗りの平面を多用して、感情移入を拒否するようなスタイルだった。年月を経て、今では外界からの要請を、自分を通してパネルに反映させるというような感じになったかな。それもなんだか似ているところがある。長い道のりだ。
彼は最近はもっぱらその表現を、蜜蝋を溶かし自分の意識が届かない(消えていく)状態を作ることによってやっている。いろいろな技法があるらしく、インスタント講義を受けました。

田鎖幹夫展
田鎖幹夫展

平塚良一展

ギャラリー檜B・C(中央区京橋)
2016.10.3-10.15
平塚さんとはC.A.Fという、作家が自主的に運営し展覧会を開催するグループで一緒になって20年くらい。その間私はくるくるスタイルを変えたけど、彼はとてもストイックにミニマルなスタイルを続けている。長年ぶれることなく自分の信念を貫き、愚直なまでに自分のペースで作品発表をしている。私のような軟弱な人間にはできないことだ。
平塚さんの絵画を追究する態度はミニマル的ですが、作品はある種自由でさわやかです。葉や種を塗りこめて削る画面に、今回鉄道模型のフィギュアが貼られていて、緊張感の中にもユーモアが混じっていました。

平塚良一展
平塚良一展

伊藤彰規展

ギャラリーゴトウ(中央区銀座1)
2016.10.7-10.15
伊藤さんとはY賞展が終わる前の前の回でご一緒した。その頃はパネルに直にアクリルを塗り、引っ搔いて作った線を使った暗い絵だったが、近年は柔らかい青に覆われた優しい抽象になっている。故郷・北見のイメージだとか。自由で屈託がないように見えますが、これだけ無造作に描いてなお絵画としての骨格を内に秘めるのは並大抵の芸ではないのですよね。
伊藤さんとはアクリルを塗った瞬間出現する空間の美しさを感じる時の何とも言えない高揚感と、それが乾くとつまらないものになってしまう失望感について意気投合しました。お互いアクリルが長いのだ。

伊藤彰規展
伊藤彰規展

わたなべ ゆう展

江原画廊(中央区銀座1 奥野ビル4F)
2016.9.30-10.15
わたなべゆうさんともY賞展以来。マティエールのことで私のコラグラフに興味を持っていただいていた。
ゆうさんは毎年この時期に江原画廊で個展をやっていて、何回かは見ています。ともかくこの奥野ビルは来るたびときめく。80数年前に建てられた高級アパートメントの床のタイルや階段の手すりなどのレトロな雰囲気はたまらないし(いわゆる「萌え」。古いか)、手動式エレベーターに乗るのもドキドキです。今、このビルには20ほどのギャラリーが入っているそうですが、芸術もそうでないものも、いわくありげに狭いスペースに雑多に詰め込まれている感じもいいです。その中でも江原画廊は特に狭くて、2畳ほどの広さにゆうさんの小品が掛かっています。狭くて小さくて作品数も多くないのに、行くといつも豊かで幸せな気持ちにしてくれるゆうさんの作品の持つ力はたいしたものだといつも感心しています。
相変わらず良く売れているようで、私も一つ欲しいなぁとつい思ってしまいます。うらやましい限りだけど、でもこのような(言い方に語弊があるかもしれないけど)売り絵を毎年何十枚も黙々と作るというのはどうなんだろうとも。(現代系の作家が、メインのスペースで自分の作品内容-作品の大きさや展示方法にコンセプト-を持って見せて、裏の談話スペースに小品を飾るというのは良く見るし、それも一つの方法だよね)
もしかしてゆうさんも大作を描いているのかも知れないし、今度どんな感じなのか聞いてみたい。

わたなべ ゆう展
わたなべ ゆう展

十河雅典展

Steps Gallery(中央区銀座4)
2016.10.3-10.15
十河(そごう)さんとは1980年代末から90年代にかけて開催した「絵画、今」展というグループ展で一緒だった。(当時の)若者が会派や主義、スタイルを超えて今の絵画をアピールしようとして集まった30人ばかりのグループで、みんな意気揚々としていたし、それなりにエネルギーもあった。今はもうかなり疲れてきたけど、まだがんばっている人も結構います。
そのひとりが十河さん。このぶっちゃけ方はどうだ。彼は私より10歳以上も上で、今、大病を患っていると聞いている。なのにこのギャラリーの壁を覆うように描きなぐられている絵具の迫力。どこからこの気迫が出てくるのだろう。絵画に対する執念のようなものを、しかも悲壮感を持った覚悟のようなものを感じました。

十河雅典展
十河雅典展

美術館&ギャラリー巡り 2016.10.8-10.12

トーマス・ルフ展

東京国立近代美術館
2016.8.30-11.13
ルフについては、2003年の森美術館の開館記念「ハピネス展」で、ぐにゃぐにゃした極彩色がうごめいているような画面(写真)を見て-そしてそれがネット上のポルノ漫画を加工して出来たものと知って以来気になっていた。
初期の「Portrait」から「ma.r.s」「jpeg」など最新作までの18のシリーズ125点を網羅した大展覧会。
18のシリーズどれもがルフの写真というメディアの可能性への挑戦で、それぞれがみな手法もスタイルも違うのに、どれも視覚や認識の深さを感じさせる展覧会だった。またそのシリーズごとの展示構成も美しく楽しめた。

トーマス・ルフ展
トーマス・ルフ展
トーマス・ルフ展
トーマス・ルフ展

塩田千春『鍵のかかった部屋』

KAAT神奈川芸術劇場
2016.9.14-10.10
第56回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館帰国記念展と題して、ヴェネチア・ビエンナーレでの展示を再構成したもの。もちろんスペースも違うので、ヴェネチアのときの船はなく赤い糸と鍵を暗い部屋に構成した展示。その重層的に糸が絡み合う空間は、いつもながら深い思いに満たされているようで、そこにいるだけで何故だか感動的な幸せな気持ちになり去りがたいものだった。

塩田千春『鍵のかかった部屋』
塩田千春『鍵のかかった部屋』
塩田千春『鍵のかかった部屋』
塩田千春『鍵のかかった部屋』

新・今日の作家展2016「創造の場所-もの派から現代へ」

横浜市民ギャラリー
2016.9.22-10.9
最終日に駆け込みで。横浜市民ギャラリーは桜木町に移転してちょっと遠くなったけど、実は駅からマイクロバスが出ていて便利でした。
ここは穴場です。連休で新美術館なんか混み混みだけど、こちらはしずーかに見たいだけ見られました。しかも無料です。
斎藤義重、榎倉康二、菅木志雄、池内晶子、鈴木孝幸の5人。前の3人は大御所で、見慣れた現代の古典とも呼べる作品でしたが、コンパクトに仕切られた個展形式の展示はとても新鮮に見られました。個人的には榎倉の写真の作品が好きです。70年代の3人に対して池内の細い糸の作品、鈴木の歩きながら収集したモノの展示は、柔らかで軽く「今」の気分でした。

新・今日の作家展2016
新・今日の作家展2016

杉本博司「ロスト・ヒューマン」

東京都者写真美術館
2016.9.3-11.13
杉本の作品は水平線のやつと、劇場の真っ白に発光したようなスクリーン、自然史博物館のジオラマなどすごく好きだが、その後のいろいろごちゃごちゃやっているのはどうかなぁと思っていた。写真というメディアの中で堂々と勝負できるのになぜ?という気もしていた。
でもこの「今日 世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない」(カフカのパロディ)という展示にはホントびっくりした。最近の杉本の誇大妄想狂的な発言等にはあまり興味を持っていなかったけど、この展覧会の「人類と文明の終焉」というテーマは、ここまで徹底すれば立派だなぁと感心するほどだった。展示は、杉本が妄想した、文明が終わり人類が滅びることになる33のシナリオに従って、これまた杉本が収集した様々な、実に膨大な量のオブジェがインストールされている。人類が滅亡するそのわけは、物理的、生物学的、経済的、政治的あるいは自然現象など様々で、本当にこれで滅亡するかもと思えるようなリアリティのあるものから、奇想天外で滑稽なものまであって、その振り幅が芸術になっているのかなぁと思った。ともかくここまで破滅的にやられると、「そうだよなぁ、人類なんか滅亡すればすっきりするかもなぁ」と思ってしまう。
下の階の<廃墟劇場>と<仏の海>もすごいです。

杉本博司「ロスト・ヒューマン」
杉本博司「ロスト・ヒューマン」

クリスチャン・ボルタンスキー「アニミタス-さざめく亡霊たち」

東京都庭園美術館
2016.9.22-12.25
久しぶりの庭園美術館。新館ができました。今回のボルタンスキーの作品は本館の旧朝香宮邸をめぐる中で、どこからともなくいろいろな人の声が、それもよくわからないが不安そうな様子で聞こえてくるもの。まさに「さざめく声」による作品です。古くて由緒あるアール・デコ様式の建物で聞こえるその声はまさしく亡霊の声に思えてくる。2階は心臓音の作品(心臓の音とともに電球が赤く光る)と、影絵の作品。
新館では、いろいろな人の目が印刷されている半透明な布の中を歩く作品と、稲藁が敷いてある部屋の中央にスクリーンがあって、そこに風鈴が揺れて鳴っている映像が流れている作品。
私は基本的にボルタンスキーは好きで、この展覧会の5種類の作品もどれもがボルタンスキーの特徴をよく表していて、それがバランスよく構成された素晴らしいものだと思った。

クリスチャン・ボルタンスキー
クリスチャン・ボルタンスキー
クリスチャン・ボルタンスキー
クリスチャン・ボルタンスキー

 
Copyright©2008-2023 Tomoo Arai All Rights Reserved.
E-mail:arai@edu.shimane-u.ac.jp