瀬戸内国際芸術祭&直島探訪記 2010.9.15-9.17(その3)

直島から豊島に向かう
(直島から豊島に向かう)

2日目から再開します・・・・・が、この記事だらだらと書いているうちにとうに瀬戸内国際芸術祭は終わってしまいましたー。
あの時はまだ暑かったんだよなぁ。こんなに涼しくなってしまって。9月からこつこつ書いてはきたけど、これから書き続ける意味あるのかなぁとは思いますが、もともと私自身としては書くこと自体に意味(ボケ防止的な?)があるので、読む方(がいるとして)の意味については関知できませんです。

2日目は「瀬戸内国際芸術祭」の6つの会場(島)のうち豊島と男木島に行って来ました。
それぞれの島の間は20分程度で行けるのですが、何しろ便が少なくて(日に3便程度)、またどの島への便もあるわけではないので1日に2島回るのが精一杯です。
直島からは豊島、男木島、犬島の3島に行けますが、そのうちの豊島、男木島に行きました。

宮浦港(写真①)から出発です。
この宮浦港のターミナル「海の駅なおしま」、チョット面白い建築です。岸壁や水平線とシンクロする屋根と、垂直に立つ細い柱。妹島和世と西沢立衛のコンビSANNAの作品です。SANNAはこのTOPICSでこれまでもよく出てきていて、このスタイルはロンドン、サーペンタインギャラリーのパビリオンなどでもよく見たものです。
2人はこの芸術祭ではここ以外でも西沢は豊島に内籐礼美術館を、妹島は犬島に個人宅(家プロジェクト)を設計しています。

宮浦港
写真①宮浦港

まずは豊島に着いてすぐ歩いてトビアス・レーゲルガーの「あなたが愛するものはあなたを泣かせもする」(写真②)に行きました。タイトルがいいですね。カフェになっています。

トビアス・レーゲルガーの作品
写真②トビアス・レーゲルガーの作品

豊島は歩くのには大き目でしかも作品が数か所に点在しているので、芸術祭のために無料で循環しているバスを利用して巡りました。
最初に来たバスが東回りだったので、そのまま東回りで1時の出港までに見られるだけの作品を見ました。

最初に着いたのが森万里子の「トムナフーリ」(写真③)
受付でチェックを受けてせまく急な山の斜面を10分ほど登ると、竹林の中に緑の水草で覆われている池が見えてきます。その真ん中に森万里子の「トムナフーリ」があります。
「トムナフーリ」とは古代ケルトの伝説で「霊魂転生の場」のことだそうです。このオブジェはあのノーベル賞を受賞した小柴昌俊教授の研究で有名な「スーパーカミオカンデ」とコンピューターで結ばれていて、超新星が爆発すると光る!
超新星ってなんだ?−星の進化の最終段階における大規模な爆発現象(広辞苑)−だそうです。

森万里子「トムナフーリ」
写真③森万里子「トムナフーリ」(クリックで拡大します)

それにしても地中美術館のところで紹介したウォルター・デ・マリアが1977年に行った大規模なランドアート「稲妻の原野」(ニューメキシコ州の広大な原野に400本のステンレスの棒−避雷針−を立て落雷を呼ぶ作品)に僕らは驚いたものでしたが、偶発的、瞬間的な自然現象を目に見えるようにして宇宙の根源との交感を図るという点で、同じコンセプトを持つと思われる作品でも、超新星に比べるとデ・マリアの稲妻の方はずいぶんアナログに感じるなぁ。
20分ほど池脇に佇んでこの不思議なオブジェを見ていましたが、結局はひかりませんでした。
しかしこれが優れてコンセプチュアルな作品だとすると、何も光るところを見なくても、その作品の構造を知っただけでも、十分に作品として成立すると考えても良いかもしれません。
その瞬間を見なくても、鑑賞者の頭の中で概念としての「宇宙」は生まれるのですから。
例えば河口龍夫の「dark box」という作品は、見たところ単なる鉄の箱がボルトで留められているだけですが、その中に例えば「1997年」(それぞれの年代がついた箱があるので何年でもいいのだけど)の「ある日あるところの闇が入っている」という認識によって、とたんに「闇」が生々しく存在として迫ってきます。
あまりいい例じゃなかった?ともかく「存在と認識と概念」はとてもスリリングな関係にあります。
しかし、この作品の光はただ電球のように光るのではなく、「怪しく揺らめく」ようであるというのを聞くと・・・やはり見たかったなぁ。

東回りのバスに乗り次に着いたのは青木野枝の「空の粒子・唐櫃」(写真④)
青木のいつもの鉄の作品ですが、青木のこの細い構造はどの計算式にも組み込まれない形と空間の現われ方をしていて何とも素敵です。構造としてあるのに人知をするっとすり抜けていく。今回神社のそばなのでなんとなく神様的な雰囲気を感じました???
コメントがいい加減になってきたか?

青木野枝「空の粒子・唐櫃」
写真④青木野枝「空の粒子・唐櫃」

藤浩志の「藤島八十郎をつくる」(写真⑤)。これは架空の人物「藤島八十郎」の家の展示です。実際には存在しない人ですが、そこには彼の日々の生活を示す様々なものが見られます。読んでいる本や趣味の大工道具、台所の漬物の多さやパソコンでの仕事ぶり、挙句は本人宛の手紙がたくさん届いています。目いっぱいおかれているそれらのものを見て回っていると本人の思想信条や暮らしぶりがとてもリアルに伝わってきます。
(この芸術祭の展示は屋内のものはほとんどが廃屋を利用しています。この作品など廃屋を見事にそのまま使っています)

藤浩志「藤島八十郎をつくる」
写真⑤藤浩志「藤島八十郎をつくる」

「関係性さえあれば存在する」ということでしょうか。すべての存在の根拠は関係性なのだと言っているように感じられました。逆に言うと関係しなくなったら存在もない。生きることはすべて関係性に置き換えられます。個と社会、個と世界、個と自然、自と他・・・・。
李禹煥の立体作品のすべてのタイトルが「関係項−」と言うのも頷けます、というか当たり前すぎるくらい。
まぁ自己の確立と社会との関係は根本的に人が皆考えながら生きていることでありますしね。
この年になっても自我があやふやで、かと言って結構勝手気ままに生きて来たので社会への帰属意識も薄い、という私のような人はどう生きていったらいいのでしょう。
こういう作品を見るとわが身が心配です。
話はチョットそれますが、よくデッサンをする時最初はそのものの形しか目に入らないのですが、ずっとやっていくとモノとモノやモノとバック・・・「存在」や「空間」の関係に気が付くようになります。その時初めて「絵画」の内容に入れたのだと私は思います。関係性を求めることこそそのものの本質や実態に向かう一歩でしょう。

結構歩き疲れてふらふらと海に向かって降りていくと棚田の合間に建築中の「内籐礼美術館」が見えました(写真⑥)。これは最初に書いたように宮浦港ターミナルを設計した<NASSA>の一人西沢立衛の設計です。その時はまだ完成しておらず(10月17日開館予定)入れませんでしたが、今はもう当然開館していますね。この美術館は内籐の代表的な作品<母型>の水滴の形からイメージされています。
(写真ではよく見えないかもしれない。緑の合間の丸みのある白い構造物です。)

内籐礼美術館
写真⑥内籐礼美術館(クリックで拡大します)

内籐礼はファンが多いですが、私もかなりのファンです。例えば2008年横浜トリエンナーレ三渓園「茶室」の、細いひもがゆらめく作品や、昨年神奈川近代美術館の個展での、なみなみと水が入っているビンがただ置かれている作品など、ホント痺れます。そこではなんでもないものが愛おしいものとして生まれ落ちる奇跡のような瞬間に立ち会えます。
(神奈川近美の個展タイトルがよかったですね。「すべての動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している」−でも人間はなかなかそうはならないんだよなぁ)
内籐本人が言っています。

「そこで生まれてくる形や揺らぎやきらめきは私がコントロールできるものではありません。私が<恩寵>と呼んでいる・・・・(中略)・・・・・。目の前で起きている生成が、自分のなかの生気や生成であると気づき、地上の生と世界との連続性が感じられるとしたら、それは一つの幸福だろうとおもいます」(「瀬戸内国際芸術祭2010」美術手帖2010年6月号増刊、美術出版社)

内籐礼もこの「ベネッセ芸術島」との関わりの深いアーティストで、安藤、大竹、杉本に次ぐくらいではないかな。順番を付けてもしようがないか。家プロジェクトの「きんざ」は予約が取れないので有名です。1日に24人程度しか入れないので、かなり前に予約しないと見られません。ここに内籐礼の美術館ができるのはすごいことです。どれだけの人がくるのでしょう。今後は直島に行ったらその足を豊島まで伸ばすということになりそう。

まだ回り切れないうちにタイムアップ。この他ジャネットカーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの「ストーム・ハウス」(写真⑦)や、戸髙千世子の「豊島の気配」(写真⑧)なども見ました。私の大好きなクリスチャン・ボルタンスキー、塩田千春等の作品が見られなかったのは残念。

ジャネットカーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの作品
写真⑦ジャネットカーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーの作品
戸髙千世子「豊島の気配」
写真⑧戸髙千世子「豊島の気配」

また長くなりそうなので、とりあえずここで切ります。
乗りかかった船なので、いつになるかわかりませんが最後まで書ききりたいです。


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