美術館&ギャラリー巡り 2010.11.12-11.15(その3)
東京都現代美術館エントランスのリチャード・ディーコン作品
【東京都現代美術館】
清澄白河のギャラリー群から15分ほど歩くと東京都現代美術館に着きます。
まずは【トランスフォーメーション】展。
中沢新一と長谷川祐子の協同企画で、「生きることは変わること」と銘打って「『変身−変容』をテーマに人間とそうでないものとの境界を探る展覧会」でした・・・。
かなりあからさまに人間がそうでないもの−多くは他の動物−に変わってました。
例えば、ウサギの耳と体を持ったフランチェスコ・クレメンテの自画像とか、鹿やウサギの耳を持つ36体ものヤン・ファーブル像とか。
マシュー・バーニーなどはこの企画では花形ですね。あのおぞましい《クレマイスター》をまた見てしまいました。
パトリシア・ピッチニーニの映像作品《サンドマン》に至っては、大海原を一人泳ぐ女性が何度も海中に潜るたびに段々とエラのような切込みが首筋に発生するという変身ぶり。これはハリー・ポッターの「えら昆布」(ハリー・ポッターと炎のゴブレット)そっくりではないか!思わずどっちがどっち?と考えてしまいました。
そういえば「ハリー・ポッター」では人間、じゃなかった魔法使いはしょっちゅう猫やネズミに変身してますしね。「トワイライト」もそうだし。
「人間が『人間以外のもの』に変わることは何を意味するのか?」とHPに書いてありましたが、そう言われても・・・・うーーーーん、わかりません。そんなにすごいことなのかな。
私自身は個体(自分)とそうでないもの、つまり空間や宇宙や他のものとの境界の方が興味あります。乖離や融合といったことですが、そんなテーマでも展覧会はできると思うので是非是非。
他には小谷元彦やイ・ブルなど。
いつも思うのですが、現代美術館の企画は作品の質の高さとアトリウムをはじめとする展示スケールの大きさなどはホント見事なもので圧倒されます。
しかし私の関心を一番誘ったのは1Fの通路の窓側にひっそりと並べられていたサラ・ジー(Sarah Sze)のインスタレーションでした。発泡スチロールやペットボトル、画鋲などの日常品が綿密に構成されています。無機的な量産物なのに、そのおびただしいほどの集積は、それこそこの展覧会のタイトルに相応しい有機的な生き物に思え、威圧感すら覚えます。ここには規則はあるのかないのか、偶然か必然か−そんな興味深いテーマがか細くも鋭く私に迫ってきました。
次にもう一つの企画【オランダのアート&デザイン 新・言語】展。
こちらの方が断然面白かった。
オランダの各種のデザイナー4人の展覧会ですが、「アートはモノではない」「デザインはカタチではない」というキャッチフレーズ通り、デザイン作品というよりも全くのコンセプチュアル・アートでした。
彼らの作品は「人の存在を肯定・尊重しながらも『環境と消費』『都市と社会システム』『歴史と文化の継承』など、今日的な問題意識を下敷きにして、私たちに未来の選択を問いかけ」るものであり、「人とモノとの関係、人と人とのコミュニケーション」に働きかける「触媒」として作用するものということですが、まさにユーモアと驚きをもった”デザイン”によって参加者の概念を刺激し、「人とモノとの関係、人と人とのコミュニケーション」を、喜びと希望のあるものとして示した素晴らしい展示でした。
この企画展は写真撮影OKであり、また下のようなクレジットを明記することでブログに載せることも許可されているので、写真付きでいくつか紹介します。
マーティン・バースの「スウィーパー・クロック」(写真①)
映像作品ですが、時計の針のように見えているのはゴミを細長く並べたものです。よく見ると2人の掃除人?がこのゴミを、長針は1分に1分分(ということは6度)、短針は1時間に1時間分(30度)リアルタイムで動かしているのです。
まぁゴミ時計です。
長針を動かす人は大変です。だんだん疲れてきて針(のゴミ)が曲がってきたりします。
ただそれだけですが・・・・何とも無駄な苦労のようですが、でもステキですよね。なんだろう。見ている方の気持がゆったり、はればれしてくるんです。
マルタイン・エングルフレクトの「小さな東京モニュメント」(写真②)
会場の入り口で小さなレンガを渡されます。なんだろうと思っていましたが、皆がこの円形の場の中にレンガを積んでいくのです。
セメントと小さなコテが置いてあり、各々が自分の好きなところにレンガを積む−この作品もただそれだけで、何か有用なものができるわけではありません。
しかし、しかしですよ−今まで多くの人が積んだレンガの上に自分のレンガを積む、その行為がなんとも喜ばしく幸せ感溢れるものなのです。
嘘だと思うのならやってみてください。
全然知らない人と一つのものを作っていく・・・・前に積んだ人の上に積む・・・・きっとあとの人も自分のレンガの上に積んでいくだろう・・・・こういったことが人と人のつながりをこれほどまでに信頼感を持って感じさせてくれるとは驚きです。
大きく写した写真(写真③)に「TOMO」と書いてあるレンガが見えますか?それが私が積んだレンガです。
(ここはミニチュア版でしたがマルタイン・エングルフレクトは実際に公共の場で、もちろん実物のレンガでこのプロジェクトを行っています。
写真②作家:マルタイン・エングルフレクト CC / BY-NC-ND
写真③作家:マルタイン・エングルフレクト CC / BY-NC-ND
テッド・ノートンの「Wanna swap your ring?」(写真④)
ジュエリー・アーティストであるテッド・ノートンは壁に打ったピン(全体でピストルの形をしている)に自分のデザインした指輪をひっかけました。
そしてそこに指示を書きました。「あなたの指輪を私の指輪と交換しませんか?」
観覧者が自分の持っている指輪やキーホルダー、ストラップ(シュシュなんかもあります)をノートンの指輪と交換して掛けたのがこの作品です。(写真⑤)
なんともきれいです。
写真⑤作家:テッド・ノートン CC / BY-NC-ND
これも自然とほのぼのとした優しい気持ちになる作品です。
モノとモノの交換が他の人とのつながりや気持の共有をこれほどまでにもたらすのはなぜでしょう。
私もアンパンマンのストラップと交換したかったですが、もうオリジナルの指輪がありませんでした。残念。
ということで、とても素敵な展覧会でした。
【宅野敏和個展 −衣・食・住・絵画−】
ここで一つお知らせを。
平成17年度絵画ゼミ卒の宅野敏和が個展を益田市のグラントワで開催します。(写真⑥ DM)
写真⑥宅野敏和個展DM
2010年12月25日(土)〜2011年1月4日 (2010.12.28-2011.1.1は休館)
会場:島根県立芸術文化センター【グラントワ】多目的ギャラリー
宅野は千葉県の特別支援学校教員をしていて今年5年目です。
忙しい中時間を見てはコツコツと制作を続け、故郷の益田で2回目の個展を開くことになりました。
宅野は私のゼミでは珍しく真正面からの写実を続けています。
夏のSEED展ではこんな作品を出してました。(写真⑦)
写真⑦SEED展出品作品
特に目新しいスタイルではないですが、彼の透徹したまなざしによる厳しい描写はリアリティとジーンと染みるような哀感をともに持っています。
この画面には宅野本人の人間性、誠実さや生き方がそのまま反映されているのが良くわかります。
このようにこの人は生きてきたんだなと。
絵画制作はどこかの会の会員になるためでも、コンクールで賞を取るためにするものでもありません。自分の生き方の確認と生きる姿勢を作るものです。
宅野にはこれからもこのような制作と発表を続けていって欲しい。
近くの人、見に行って下さい。
このTOPICSも今年はこれでおしまいです。
皆さん良いお年を!
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