瀬戸内国際芸術祭&直島探訪記 2010.9.15〜9.17(その1)

ベネッセハウスカフェから望む瀬戸内海
(ベネッセハウスカフェから望む瀬戸内海。
野外にジョージ・リッキーの作品。遠くには大鎚島と瀬戸大橋)

やっと暑さも少し収まったかなと思える9月の中旬、瀬戸内海の7つの島で開催されている「瀬戸内国際芸術祭」と、その中心となっていてすでに安藤忠雄の地中美術館などで有名な直島を3日間に渡って探訪してきました。
アーティスト、作品、建築、自然、島の歴史、地域の人々・・・その壮大なコラボレーション、美術を通した個と社会、そして自然の融合を全身で体感し堪能しました。
今回はその様子と作家・作品についてレポートします。

以下のような日程を計画し、ほぼその通り回れました。
それでもかなりの人出で、整理券で入場時間を決められたり、予約が取れなかったりしたので、8月の夏休みは大変だったのではないかと思います。

9月15日/李禹煥美術館、地中美術館、ベネッセハウス周辺の野外作品群、ベネッセハウスミュージアム
16日/瀬戸内国際芸術祭 豊島、男木島、直島銭湯「I♥湯」
17日/家プロジェクト

まずは1日目です。

今日回る施設(地中美術館、李禹煥美術館、ベネッセハウスミュージアム等)は全部安藤忠雄設計による建築で、安藤が個々の作家や作品あるいは直島の自然との関係を通して構築した集合体です。その意味で壮大な安藤ワールドを体験すると言ってもいいかもしれません。

昼過ぎに直島に着くとすぐに地中美術館のチケットセンターに行って整理券をゲット。40分後からの入場だったので、無料の循環バスで5分ほどの李禹煥〈リウファン〉美術館へ行きました。

李禹煥美術館は韓国人アーティスト李禹煥の個人美術館。もちろん安藤との緊密なコラボ関係で作品が置かれています。まずは遠景から野外に置かれた2つの作品を見ます。この美術館はこぢんまりとしていますが、野外作品は広々とした空間に李お得意の大きい石や鉄板が配置され、周りの景色を一気に緊張で包み込んでいます(写真①②)。
そこを過ぎると今度は安藤らしいコンクリートで仕切られた壁を右左に進んで屋内の展示へ(写真③)。
ここでも一部屋一部屋が綿密に計算され李の作品の根源性、内省性と呼応しています。(この先撮影禁止)

李禹煥美術館
写真①(李禹煥美術館)
李禹煥の作品「関係項-点線面」
写真②(李禹煥「関係項−点線面」:クリックで拡大)


李禹煥美術館
写真③(李禹煥美術館)

例えば部屋の壁の材質や天井の形態も一つとして同じものはなく、作品の様態とぴったりコラボしています。
李の作品でおもしろかったのは、岩に光があたりその影の部分に空や水の映像が映る作品。それはなんとも清新で神秘的でいつもの李の作品に見られない柔らかさを持っていました。
私にとって李禹煥は1970年代のもの派を代表する作家として30年以上に渡りさんざん見てきた既知のアーティストであり、これから見るであろう瀬戸内国際芸術祭の地域・社会連携型作品の弾け方と比べると厳格でおとなしめなので、最初は正直ワクワク感はなかったのですが、これだけ見事に建築と作品が一体化した世界を見せつけられるとやはりすごいなぁと感心せざるを得ませんでした。

それから地中美術館へ。

この美術館は安藤の初期の傑作でしょう。例によって入口からコンクリートの壁に導かれグルグル回りながら美術館内部に入ります(写真④)。
ここから先は写真撮影禁止(基本的にベネッセ関係の施設内部は全部撮影禁止です)なので資料写真はありません。
この美術館は3人のアーティストの作品しか展示していません。モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリアの3人です。

地中美術館
写真④(地中美術館)

まずモネ。
晩年(1914〜1926)の《睡蓮》5作品が展示されています。この島で近代作品が見られるのは私の知る限りこのモネとベネッセハウスフロントのジャコメッティの2点だけ。この睡蓮はオランジュリー美術館のあの壮大な睡蓮と同時期の作品で、かなり朦朧、抽象化したやつです。その様相が、よく言われるように近代の客観的視覚作品を超えていることも事実だとは思いますが、近代作品がここに置かれて違和感がないのは、白い光りを放つ回りの壁と床、つまりこの部屋によるものです(と断言しちゃう)。安藤はモネの作品があたかも光の海に浮いているがごとく見えるよう、天井から自然光を巧みに採光しています。(実はこの美術館、光はほとんど自然光なのです!)また床は白い大理石のキューブを敷き詰めてあって、これもまぶしい光を放っています。李と同じように私にとってモネも見慣れたものなのですが、これも李禹煥美術館と同じように安藤のマジックなのでした。ここのモネはまさに光の池にあるようで新鮮でした。

次にジェームズ・タレル。
タレルはそれこそ光の作家として有名で、私も写真ではよく見ていたのですが実際に見て、いや体験しておったまげました(失礼)いや驚きました。
〈オープン・スカイ〉はくり抜かれた天井から空を見上げる作品。この作品はLEDとキセノン・ランプが使われているそうですが、昼間だったのでその効果がどうなのかはよくわからず、自然光が注いでいるようでした。大理石と漆喰の白い壁と床に囲まれて、なんとも言えない淡い光が溢れる部屋に座り空を見ていると、異質の世界にしんと佇むような感覚を覚えます。くり抜かれた天井に厚みがないのがすごい(どうなっているんだろう)。白い部屋と薄い天井によって客観的に見るという感覚がなくなり体感する感じになります。
次の〈オープン・フィールド〉では入り口でしばらく待って、8人ぐらいずつ暗い部屋に入ります。壁に階段がありその上に青白く光っている四角いものが掛けられています。と思った瞬間そこから人が出てきました。エッ、ビックリ!そこは四角く開けられた次の部屋に入る入口で、前に入っていた人たちが出てきたのでした。私たちも階段を上がりその光が靄のようになっている部屋に入りました。斜めに傾いた床を朦朧とした青白い光の中を歩くと、遠近感がまったくわかりません。ここがどこなのか把握できない無限の空間にいる感覚です。心細いような至福の光に包まれているようななんとも不思議な気分でした。

そしてウォルター・デ・マリア。
ここでも入り口で少し待ってから部屋に入ると、広々とした階段の部屋の中央にものすごく大きな黒い花崗岩の球体-直径2.2mだそうで-があるのが目に入ります。ともかく広い、大きい。周りのコンクリートの壁には金箔の貼られた木製の彫刻が並んでいます。天井から入る自然光も相まって何やら厳かで静謐な雰囲気に包まれていました。石の玉なのに。

<地中>美術館をよく<地中海>美術館という人がいます。特におばさんが言ってしまいがちです。まぁ私も先日「フジコ・ヘミング」のことを「フジコ・ヘミングウェイ」と言ってしまったのでたいして変わりませんが。この島のどこからでも見える瀬戸内海はとても美しく、地中海と勘違い?してしまうのもわからないでもありません。事実、豊島で「心臓音のアーカイブ」という世界各国約1万人の心臓音を集めたインスタレーションをしているご存知!クリスチャン・ボルタンスキーも、ここは地中海によく似ていると言っていますから。けれど地中海の美術館ではありません。建物のほとんどが地中に埋められているのでこの名がついたのは周知のとおりです。環境を壊さず共生するこの建築は、でも観覧者も全体像をというかそれどころか一部の外観も見ることができません。外から建物(と言っても空からの画像では草木の生える大地に採光用の矩形の屋根あるいは穴?がいくつか見えるだけですが)を見ることができないのです。1か所、カフェからだけ外に出られますが、そこからは瀬戸内海の島々が見えるだけです(写真⑤)。これも美術館を体感するためでしょうか???

瀬戸内海の島々
写真⑤(瀬戸内海の島々)

あっ、イカン。ずいぶん長くなってしまいました。まだ直島に着いて2時間くらいしか経っていない。なんでも知ったかぶりしてしゃべりたくなる私の悪い癖だ。今回はこれくらいで終わりにします。あまり長いと誰も読んでもらえない。
続きはまた今度。


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