芸術論集/Japanese Contemporary Painters[1]―シートン・ホール大学での講演より―

Japanese Contemporary Painters[1]

 ―シートン・ホール大学での講演より―
(島根大学教育学部美術科教育研究室/美術論集第5号/平成11年3月)

はじめに

 筆者は1997年9月より1998年8月までの1年間、文化庁派遣芸術家在外研修員制度により、アメリカ合衆国ニュージャージー州シートン・ホール大学芸術学部に、客員研究員として滞在した。
 その間、ニューヨーク24ST.のプリントメイキングワークショップで版画の制作に従事した他、美術館、画廊等でアメリカ現代美術鑑賞をするなどの研修を積んだ。その中で、3月から4月にかけてシートン・ホール大学アートギャラリーで、7月にはソーホーのキャスト・アイアンギャラリーにおいて個展を開催できたことが1つの収穫であった。またシートン・ホール大学での個展の期間中の4月2日に“Japanese Contemporary Painters”と題した講演を行った。この個展と講演はシートン・ホール大学芸術学部主任、Dr.Petra T.D. Chuの招聘にたいする返礼として行ったものであるが、また4月の第1週には“Japan Week"と称した日本を紹介する催しが開かれており、その主催者であるアジア学科ディレクターのProf.Osukaの要請により、その催しの一環として組み入れさせて頂いたものである。
 当日、11時より大学内Walsh LibraryのBeck Roomにおいて、主に芸術学部の学生や教授、約50名の前で講演を行った。
 本稿ではその講演の内容を概説するが、そこで扱った作家達について、実際の講演では触れられなかった人選や分類の過程を紹介することにより、日本の現代絵画の一端についての私なりの解釈を示そうというものである。

1. 作家の分類

 約1時間の講演の中で、平面作品を主に制作する作家を12名紹介した。筆者も平面作品を制作する作家であり、筆者自身が関わる「絵画とは何か」という問題をもとに、次に挙げる作家を4名づつ3つのカテゴリーに分けて紹介した。(この「絵画」と「平面」という言葉の解釈については後述する。)
 荒川修作、河原 温、池田満寿夫、靉 嘔、赤塚祐二、吉澤美香、丸山直文、森村泰昌、有元利夫、山口啓介、星 憲司、玉川信一。
 Part.1−1950〜60年代にアメリカ(主にニューヨーク)に渡り、当時のアメリカ美術−世界の最先端の美術傾向であったポップアート、コンセプチュアルアート等−の影響のもとに自分たちのスタイルを確立し、そして国際的名声を勝ち得た作家として荒川修作、河原 温、池田満寿夫、靉嘔の4名。
 Part.2−現在の日本の平面作品の傾向を代表する作家達。80年代から活躍し「絵画」の復権をもたらしたと見なされる若手の作家群のうち、赤塚祐二、吉澤美香、丸山直文の3名と、国際的評価の著しく高い森村泰昌。
 Part.3−日本国内において有名であり人気のある、主に具象的傾向の画家として有元利夫、山口啓介、星 憲司、玉川信一の4名。
 これら各作家の人選と構成、また講演内容については、いくつかの資料によりある程度定まった評価を基にしているが、最終的には筆者自身の制作の問題意識に手繰り寄せられていることを記しておかなければならないだろう。また、なぜその作家なのかと問われれば、筆者の好みであり本当にいいなあと感じる作家を挙げたという他はない。(例えばPart.2では辰野登恵子が最も重要な作家の一人であろうが、筆者にはあまりピンとこないので取り上げなかった。)紹介する作家数が少ないため、意図したような人選が出来なかった点や、カテゴリー分けと人選に不一致な点があり、疑問を持つ方もいるだろう。この点は後で述べる。
 “Japanese Contemporary Painters”という題からすると、厳密にはPart.2の作家達だけが該当するのだろうが、筆者としてはもう少しバラエティーに富んだ日本の現代美術を紹介したかった。アメリカでの講演ということを考慮してPart.1でその交流−アメリカで活躍し知名度も高い作家−と現代美術史上の背景を、Part.3で日本独自の絵画の姿を盛り込んだ。
 講演時間の短かさにより、作家の人数も含め充分な量、内容を提供できるところまではいかず、いわばエキスだけを紹介したような形になってしまったことは否めないが、筆者なりの視点から見た日本の平面美術の状況は、概略伝えられたのではないかと思っている。

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